アンティーク時計のケースには、ある程度定番といえるような限られた種類のケース・素材が使われています。
あまり種類があるものでもありませんし、それぞれによって特徴・価値なども違いますので、簡単に時計選びの材料の1つとして覚えておくと良いでしょう。
■ ケースの素材と特徴
[ 金無垢 (Solid Gold) ]
アンティーク時計の中でも、ケースだけで話をするなら一番人気のある素材が金無垢素材のケースです。
ただアンティーク時計が作られていた当時でさえも、金は貴金属として非常に高価なものでした。
製造された数自体も少なく、現存しているものはもちろん少なく、このケースだけを収集しているコレクターもいるほどで、同じ機械の時計なら金無垢ケースが値段的にもはるかに高価になります。
金無垢の刻印の1種。作られたメーカーや国によって刻印はまったく違います。
ご購入いただく際にご注意いただきたい点は、当時も金が高価であったために、金無垢ケースの中にはケース・金属の厚み自体を薄くしているものをみかけます。
厚みを薄くしてあるケースでは、指でケースを押すとへこんでしまうものも存在します。(もちろんすぐに戻りますが強度に不安があります)こういった厚みが非常に薄いケースは、金無垢ケースとはいえますが、金自体がやわらかい金属の部類になりますので、非常に傷つきやすい・へこみやすいというデメリットがあります。
ただ薄いケースの中にはデザインの良いものもありますので、良く普段使いする時計は厚みのあるもの、収集目的・あまり使わないものは厚みの無いものでもかまわないでしょう。
■ 金とカラット(金の含有量)
金無垢とよく言われていますが、実際は100%の純粋な金というわけではありません。100%の純金では金属として弱すぎる・柔らかすぎるため、時計に使われている素材としては14金程度が一般的です。
金の含有度合いを表す数値(刻印されている記号)としては、Karatもしくは925/1000のように表されます。
カラット表示 | 1000表示 |
24 Karat | 999/1000 |
22 Karat | 916/1000 |
18 Karat | 750/1000 |
14 Karat | 585/1000 |
9 Karat | 375/1000 |
[ 金張り (Gold Filled) ]
アンティーク時計で使われているケースとしては一番一般的なもので、懐中時計などで金色の外側をしているものは、一般的にはこの素材になります。
素材としては、金-金属-金と3層になっていて、内側の金属を金の板をはさんでいるような状態になっています。(文章として書くと、すぐに取れてしまうような感じはしますが、3層になった金属といったイメージで、まず普段お使いいただく上で、金属と金がはがれてしまうことはありません。)
アンティーク時計を探される方は、「金無垢」にこだわって探される傾向にありますが、この金張りケースも良い点がたくさんあります。
1つには、はさまれている金属がしっかりとした固めの素材のものが多いので、比較的ケース自体に強度があり、また値段的にも金無垢ケースと比べると、デザインが同じでも格段にリーズナブルになっています。
良く「金張りケースだと金がすぐにはがれてしまいませんか?」というご質問をいただくことがありますが、アンティーク時計の時代・メッキという技術が主流になる前までは、金の厚みもしっかりとあったので、状態が良ければあまり気にしていただく必要は無いでしょう。
金張りケースには「Guranteed 20 Years」などのように、20~25年間の保証という記載を良くみかけますが、それらのケースが作られたのが100年~50年ほど前だということを考えれば、当時の品質の良さ・耐久性は疑うべきところがありません。
金自体の厚みが無いように思われていますが、少しの傷なら研磨してもほとんど問題が無いほど、実はある程度しっかりとした金の厚みもあります。
良く刷れる・酷使される状態の中では、金の部分がうすくなる・削れてしまうこともありますが、あくまでかなり長い年月をかけての話で、現代での時計の使われ方を考えれば、そこまで削れてしまう状況はあまり考えづらいところです。
金無垢という素材ばかりに目が行ってしまいがちですが、値段などを考えるとリーズナブルで実はお勧めのケース。欲しい時計のコンディション・デザイン等が良ければ、金張りケースは絶対に選択肢に入れてほしいところです。
20年保証のマークですが、すでに100年を経過した金張りケース。
ケース自体は非常にきれいで、金のはがれ・割れなど一切ありません。
[ 金メッキ (Rolled Gold Plate) ]
現代の時計にも良く使われている手法・素材で、金属に金メッキをかけたケースです。
金張りケースが厚みの有る金の板だったのに比べると、こちらは非常に薄い・ほぼ厚みの無い金が金属の表面にコーティングされている状態になります。
金・メッキの耐久性という意味ではもちろんあまり良くありませんが、ただメッキがはがれてしまっても比較的補修しやすいのも特徴で、下地の金属の状態が良ければ、わりと簡単に補修・再メッキしてもらえることが多いようです。
RGPのように短縮した形でケースの素材について刻印されていることがあります。
[ 銀無垢 (Sterling) ]
銀食器などでお馴染みの銀無垢のケースで、これも金無垢ケースに並んで人気のあるケースの1つです。
銀ケースには特異な点が1つあり、しばらくの間放置・経過すると、金属の表面が灰色・黒っぽく変色していきます。銀独特の変化ですが、あくまで表面だけの変色ですので、布や銀磨き専用の布で磨くと、すぐに元通りの光沢に戻ります。
良く使われる時計ならそれほど気にならないものですが、時々出して使うという方なら、使う際に簡単に磨いていただかないといけませんので少々手入れに手間はかかります。
銀無垢ケースも金無垢ケースと同様、100%の純銀ケースは無く、その純度によって1000という純度もしくは名称で表示されます。一般的なところでは、Sterling(925/1000)やBritannia Silver(958/1000)が名称やホールマークで刻印されていることがあります。
[ Silveroid ]
銀色をしたケースで、銀無垢と間違えてしまいそうな名前ですが、これはニッケル・銅等の金属の合金で、銀色のケースをしていますが銀とは別物になります。当時のケース製造会社によって、Silveroid・Silverore・Silverode・Silverineなどの違った呼び名・刻印がされています。
銀の偽物というわけではなく、耐久性のある金属として、当時の懐中時計などに良く使われていた一般的な素材の1つです。耐久性も良く変色もしないことから、銀色のリーズナブルな時計をお探しならお勧めのケースです。
このほかにもニッケルなどの銀色をした金属も一般的です。
[ Stainless Steel ]
現在でもいろいろなものに使われている金属で、錆びにくい・ほぼ錆びないのが特徴です。
古いアンティークではあまり使われていませんが、時計の直接手や肌に触れる部分は錆びやすいため、腕時計のケースの裏側に使われていることがあります。
■ 時計を選ぶ上でのケースの位置づけ
良くコレクターの間では、「時計は機械で選ぶ・ケースは何でも良い」ということも良く言われることですが、これはあくまで「かなり通」なコレクターレベルでの話しであって、普通にアンティークを楽しむ方向けの言葉ではありません。
時計を選ぶときは、ケースもデザイン的にも重要な点になります。あまり「金・銀無垢」という言葉に左右されず、時計全体のコンディションやデザインなどを考えて時計を選んでください。
最近ではケースにもアンティーク・デザイン的な価値があると、ケースだけを集める方も出てきているほどで、「機械だけ」というよりも、アンティークとしてケースなども含めて「全体的な価値」を求める方が増えてきています。
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